学会賞授賞作

第3回(2012年)

単行本の部 浅川和宏(2011)『グローバルR&Dマネジメント』慶応義塾大学出版会

本書はグローバルR&Dマネジメントを専門とする著者が,1990年代半ば以降発表した英語論文に基づき、3部構成として纏めたものである。序章に続く第Ⅰ部は、日本企業の実態調査に基づき、グローバルR&Dの組織力学について論じている。第Ⅱ部は、日系企業のヨーロッパR&D拠点を中心に、イノベーションを促進するR&D戦略について論じている。

第Ⅲ部は、R&D戦略とマクロ環境について論じている。結論に当たる部分は、第11章の「メタナショナル経営論に向けて」であり、ここで著者の主張と今後の課題が述べられている。

著者は計量分析の手法による綿密な論理を展開する研究者として世界的に高い定評を得ているが、本書では、むしろ緻密な実態調査を基礎において計量分析の結果を補強している。その力量には敬意を表したい。学会賞(単行本の部)に値する立派な業績と評価するものである。

ただし、課題も残っている。第1は、全体を統一するグローバルR&D理論に欠けていること。印象としては、中心課題が、多国籍企業のR&Dに関する本社(R&D部門)と海外R&D部門の組織問題に還元されてしまっていること。第2は、グローバルなR&Dの具体的なマネジメント実態、創造性を高める研究人材のマネジメントなどのコンテンツが描かれていないこと。

第3は、外国で発表された論文という性格上、日本人研究者の業績が十分に紹介されていないことである。これらの課題は、われわれが共有すべき性格のものであり、本書の価値を低めるものではない。世界的レベルの業績として高く評価するものである。さらに一層の研究の深化を期待したい。

学会賞に戻る