学会賞授賞作

入江猪太郎賞(2015年)

古沢昌之(2013)『「日系人」活用戦略論―ブラジル事業展開における「バウンダリー・スパナー」としての可能性―』白桃書房


本書は、新しい国際人的資源として、「日系人」に注目した研究である。具体的には、ブラジルの日系人社会に分析の焦点を置いている。現在、世界の人的資源管理研究者の間では、海外移住者(SIEs)、海外帰国者(Returnee)、移民(immigrant)などが新しい国際人的資源として注目されている。彼らによる本国文化(本社)と海外子会社を橋渡しする機能”バンウンダリー・スパナー(Boundary-spanner)”が期待されている。この点に注目し、ブラジル日系人のポテンシャルを分析したのが本書である。この研究は、現地での度重なる調査研究(インタビューとアンケート調査)だけでなく、日系ブラジル人の日本における生活実態の調査も行っている。包括的なブラジルの日系人研究であるばかりでなく、彼らのブラジル日系企業でのバウンダリー・スパニング機能についても深く掘り下げた研究である。本書は、従来の国際人的資源論の視点にとどまらず、異文化経営、移民研究といった各方面からの知見を駆使した学際的アプローチをとっている。二次資料のみならず、豊富な一次資料を基に、詳細な実態調査を行っている点、定性的、定量的方法論を駆使し精緻な分析を行っている点が高く評価された。

ただし、対象事例がユニークな研究であるがゆえに、その特殊性が、キー概念の一般化にどのように貢献できているのか、もう少し丁寧な説明ロジックが必要であろう。このことは自ずと、日系ブラジル人的バウンダリー・スパナーと、他の国または民族のバウンダリー・スパナーとの異同点を明らかにする国際比較研究を要請するであろう。それは今後、発展途上国企業のグローバル化が進むとき、華僑や印僑あるいは海外出稼ぎフィリピン人などのネットワークが「バウンダリー・スパナー」の役割を果たす可能性が大きいからである。

以上を踏まえ、本書の学会および実業界への貢献は非常に大きいと評価する。5名の学会賞審査委員は全員一致で、本書を平成27年度の「入江猪太郎賞」に決定した。

 

学会賞委員会委員長 安室憲一(大阪商業大学)

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