多国籍企業研究第11号
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21日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視ができるレベルではない(技術レベル中)28。日本と同等の品質や納期を、現地で再現できる技術力があることは販路開拓の大前提である。また、アメリカの有名な自動車部品メーカーのC社やD社は、K社の品質を評価し取引が開始された。これも日本で培った優れた技術があったからであろう。第2に、納期管理や納品形式に関するK社のノウハウや技術は、地場企業のみならず、日系競合企業と比較して優位性があり(技術レベル高)、進出先でも重要な役割を果たしているという29。納期管理や納品形式に関するK社のノウハウや技術は、大きく3つ挙げる事ができる。まず、納期管理力である。それはJIT生産による納期管理と在庫保有力である。他の日系競合企業と比べても優れているという評価をしている。また、様々な部品を顧客である企業が使いやすい形で納品する「納品形式での差別化力」が販路開拓で重要である。これに関連して買入れ商品の品質評価力も重要であった。「K社が品質評価したサプライヤーならば信頼できる」ということで顧客企業も安心して使用できるのである。納期管理力、納品形式での差別化力、品質評価力などは、製品の仕様や品質そのものではなく、顧客対応力の強みと言えるだろう。(2)どのようなマーケティング資源が販路開拓に貢献したか第1の経営資源は、日本の本社の現地との連携力である。連携の一つは情報の連携である。日本の営業活動で得られた新規開拓情報を現地に伝えて連携することである。自動車の重要保安部品では、日本発の営業情報が重要である。また、K社はメーカーベンダーとして色々な取引先を知っているので日本国内における様々な顧客や仕入れ先からも情報が入ってくる。この情報を現地に伝えて連携する連携力である。また、提案の連携も重要である。同社は、商品開発の早い段階から顧客企業に入り込んで金属加工の種類、使用目的、ロット・コスト等を総合的に判断し最適な提案を行っている。提案営業力が大きな強みであり、意識をしてその国内の強みを海外展開しようとしているそうである30。さらに、生産技術の修正に関する技術的連携である。日本の技術部門や品質管理部門が、現地材料を使った生産のための技術を開発し、それを現地に移転した。その結果、現地材料を使った4M変更が求められる場合であっても、日本と同じ品質や納期を保証することができた。このようにK社は現地と効果的に連携する能力や体制を日本に持っている。第2の経営資源は、日本の力を利用するために現地に存在する経営資源である。それは、日本との連携を使って販売拡大をするための経営資源である。まず、日本と連携するために送り込まれた優秀な日本人である。日系に対する自動車の重要保安部品については、日本人が行うことが効率的28 インタビュー調査では自社のものづくり技術を内製品と買入れ品に分けて、インタビュイーに自己評価をしてもらった。内製品については製品技術(設計・配合)、生産技術、品質管理技術、提案力、納期管理力、顧客対応力、買入れ品は提案力、納期管理力、顧客対応力、品質評価力の項目について、高:日系他社に優れる、中:ローカル企業は真似できない、低:ローカル企業でも同等レベルありの3段階評価である。29 インタビュー調査より。30 インタビュー調査より。

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