多国籍企業研究第11号
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24日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視の連携力は一般的に重要かもしれない31。さらに、中沢(2012:170)がいうように日本の中小企業の中間財はアジアのものづくり現場ではブランド化している。現地での知名度と信頼の醸成も、販路開拓に成功している多くの中小製造業に共通の現地マーケティング資源のはずだ。事例を重ねることで、資源の構築プロセスに関する知見を深め、現状は曖昧な現地マーケティング資源の定義も精緻化したい。そして、分析枠組みの一般適合性を高めていきたい。また、第2の課題として、プロセスをより細かくみていくことも必要である。すなわち現地マーケティング資源を構成するケイパビリティについて、どのような組織ルーチンが束になって、どのようなケイパビリティが実現しているのかというより細かいプロセスの分析である。さらに、中小製造業の経営資源の非立地制約性について今後考えて行きたい。K社の事例では、ものづくりの資源は販路開拓や販売拡大に有効に機能している。例えば、内製品の製品技術や生産技術は、他の日系企業と同等レベルの技術という評価だったので、日本国内では、臼井(2015)のいう基盤資源であるが、進出先国では地場メーカーとの比較においては企業特殊資源に近い位置にリポジショニングされているように見られる。納品形式による差別化力、日本で培った提案力などのノウハウもその可能性が高いが、本稿ではそこまで立ち入った観察を行うことができなかった。今後の課題としたい。謝  辞インタビューを快く引き受けて下さったK社関係者の方々、本稿の査読について、多くの有益なコメントを頂いた査読者の方々に深く感謝申し上げます。インタビューリスト:元K株式会社    自動車部品事業本部長   F氏参考文献天野倫文(2010)「新興国市場戦略の分析視角に関する一考察─非連続な市場への適応と創造─」国際東アジア研究センター『東アジアへの視点:北九州発アジア情報』21(1)2010.3、pp. 14-26.臼井哲也・内田康郎(2012)「新興国市場戦略における資源の連続性と非連続性の問題」国際ビジネス研究学会『国際ビジネス研究』4(2)、pp. 115-132.臼井哲也(2015)『リソース・リポジショニング・フレームによる新興国市場戦略の分析視角:本国資源の企業特殊優位化の論理』国際ビジネス研究 7(2)、pp. 25-45.財団法人 中小企業総合研究機構(2003)『日本の中小企業研究』同友館。佐竹隆幸編著(2014)『現代中小企業の海外事業展開』ミネルヴァ書房。瀧澤菊太郎(1982)『中小企業の海外進出』有斐閣選書。丹下英明(2015)「中小企業の新興国メーカー開拓戦略:中国自動車メーカーとの取引を実現した日系中小自動車部品メーカーの戦略と課題」日本政策金融公庫総合研究所編『日本政策金融公庫論集』(27):31 但し丹下(2015:40)によれば、特に地場企業への販路開拓については、合弁先や買収した企業の経営資源の活用が重要という報告があり検討が必要である。

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