多国籍企業研究13号
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31日系企業の海外事業におけるコントロール・メカニズム― 内部化理論と公的なコントロール・メカニズムに焦点を当てて ― 山内 利夫、立本 博文(Tsai & Ghoshal, 1998; Colakoglu, 2012)。ⅲ.コントロール・メカニズムとコミュニケーション・コスト組織的なコントロール・メカニズムを機能させるためにはコミュニケーションが必要となる(Ouchi, 1979)。コミュニケーションは、発信主体、受取主体、チャネルおよびメッセージからなり、相互作用が生ずる関係が望ましい(Berlo, 1960)。しかしながら、組織内のコミュニケーションはコストを要し(Rindfleisch & Heide, 1997; Buckley, 2009)、異なる地理的・文化的背景をもつ拠点を擁する多国籍企業ではそのコストがより大きくなり得る。ここでいうコストは、情報量の多さに起因するコスト、コミュニケーションの仕組みの整備に要するコスト、および情報の正確性の確認に費やすコストがある(Buckley & Casson, 1976; Rugman & Verbeke, 2003)。従って、多国籍企業はコミュニケーション・コストの低減に取り組むこととなる。一つのアプローチは、組織内の関係構築を促し、信頼関係を醸成してコミュニケーションの壁を低下させることである(Bartlett & Ghoshal, 1987; Ghoshal, Korine & Szulanski, 1994; Dyer, 1997; Beccerra & Gupta, 1999)。近年では情報通信(ICT)技術の発達により、より多くの情報を企業内のみならず企業の境界を越えて流通できるようになっている(Chen & Kamel, 2016)。Chelariu & Osmonbekov (2014)によれば、ICTインフラの活用による企業業績への効果はその手段や企業関係の状況によりまちまちであるが、コミュニケーション改善を通じて業績改善に資する可能性がある。3.公的なコントロールと業績に関する仮説先行研究より、多国籍企業は、海外拠点を取り巻く不確実性への対応のために二つのコントロール・メカニズムを複合的に利用し、海外拠点の内部化を図っていると考えられる。海外拠点の内部化を進めながら取引コストを低下させて、競争優位性を作り出す。図表1に示すように、公的なコントロールと組織的なコントロールは階層的にコントロール・メカニズムを構成している。出資比率等の公的なコントロールによって、海外拠点へのコントロールの大まかな性格が定まる。加えて、多国籍企業は市場型・官僚型・クラン型といった組織的なコントロールによってコントロールを強化する。組織的なコントロールは組織コンテクストに依存し、本社と海外拠点の間でどのような社会的要件(例:互恵基準・権威性・価値観など)を共有しているかによって大きく性格を変える。社会的要件は、文化的な価値判断も含むため、多国籍企業の出自国籍によって大きく異なると考えられる。ここで、二つのコントロール・メカニズムのうち、公的なコントロール・メカニズムは、支配側(親会社・本社)に法的権利を付与するため、組織的なコントロール・メカニズムよりも強力である。加えて、公的なコントロール・メカニズムが存在すれば、被支配側(海外拠点)との間に組織的なコントロール・メカニズムを構築し、コミュニケーションを促し、組織的なコントロールを及ぼすことが容易になる。このため、多様性ある組織を運営する多国籍企業にとって、公的なコント

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