学会賞授賞作

2017年第8回多国籍企業学会賞「単行本の部」受賞作
学術研究奨励賞

古川 裕康(2016)『グローバル・ブランド・イメージ戦略』白桃書房

受賞理由:

古川裕康著『グローバル・ブランド・イメージ戦略』は、どのような文化圏にどのようなグローバル・ブランド・イメージ(以下、GBIと略記)戦略を展開したら最も効果的かを明らかにしようと意図している。

GBI戦略の各文化圏における効果を検討するべく、7種類のGBI戦略を抽出している。すなわち、価格訴求要素、品質訴求要素、多様性・新規性訴求要素、集団訴求要素、ステータス訴求要素、感情訴求要素、社会貢献訴求要素である。既存研究を交えて、これらはすべて異文化による影響(関連)要因として提示され、文化の違いによる仮説が提示されている。そして7種類の訴求要素の各国民文化圏におけるパフォーマンスを検証しようと試みている。体系的研究という証左が十分に認められる。従来のGBI戦略には見られない異文化への取り組みが体系的に整理されて実現している。

上記の訴求要素の各国民文化圏におけるパフォーマンスを検証するための手法としてWeb内容分析を用いた点が注目に値しよう。まさにWebを未開拓の多くの知識が眠っている巨大な知識ベースと見なし、そこから知見を発見しようとする点で、独創的と言える。さらに方法論自体の独創性もさることながら、実証にも効果を発揮する点も見逃せない。既存研究が直面したアンケート調査の限界をWeb内容分析により打破した功績は大きい。

こうして、GBI戦略を必須とする企業に大きなインパクトと有益な示唆を本書は与えられると期待してよい。

他方、研究主体が多国籍企業ではないのではという見方もできなくはない。こうした点を凌駕するには、かかる研究成果に対するグローバルブランド・マネジャーからの生の声を取り入れるような工夫が欲しい。ただし、それを織り込むと、著書の体形が崩れるため、無理な要求となる。学術的な面と構成上の面からは、理論と実証がやや遊離しており、うまく結び付けられないというように受け取れる。

こうした課題は承知の上で、過去にグローバル・ブランド研究で多国籍企業学会賞を受賞された単行本と比べても、本書の方が分析に斬新さがあり、ありそうでない手を尽くされていない問題に挑戦している点で、評価したい。ゆえに、学術研究奨励賞に匹敵する成果として推挙した次第である。

 

学会賞委員会委員長 藤沢武史

学会賞に戻る